犬の十戒

病気を認識するようになってから
調子の悪いとき電話意外の対処法として
感動するDVDや動画を見て泣くようにしている。
ボクは、あまりにも泣くことを我慢し過ぎた。
時には泣くこともあった。
しかし、極力避けてきた。
今は、意識して泣けるような動画を見る。
そして大泣きする。
感情のコントロールが出来ないせいか涙がすぐに出てくる。
彼女は、ボクに言った。


「繊細なんだから。泣くのを我慢しちゃダメだよ。ストレスの発散になるんだから。」


今日は天気が悪い。そして、深夜業務で明け方まで仕事だ。
テンションが低い。
だからこの動画を見た。大学生のときに死んだ犬を思い出した。


ある日、犬の具合がおかしかった。老犬だから心配していたんだけど。
ボクは午後からの授業をサボって犬を毛布に包み抱きかかえて
かかりつけの動物病院に歩いて連れて行った。
自転車で行くと10分もかからないのに歩いていくとかなりの時間がかかった。
ボクの体温で暖めながら犬の体温が下がらないようにするためにはこうするしかなかった。
病院へ着くと何人かの人が順番を待っていたが
ボクは、受付でこう叫んでいた。
「先生!モモ(犬の名前)がおかしいんです。助けてください!」
ボクの目からは涙が溢れていた。ヤバそうな予感がずっとしていたのだ。
待っていたお客さんも事態を理解してくれて順番を譲ってくれた。


老衰だった。腹水が溜まり肺にまで水が溜まっていたのだ。
ボクらは別室に通された。先生の休憩室だった。
他の方々に気を使ったのかボクに配慮をしてくれたのか
別室での治療になった。
そしてモモは一度、心肺停止になった。
目から段々光が失われていく・・・
「先生!!」
ボクはパニックになっていた。


モモは小学校のころからずっと一緒だった。
その間、いろんな猫やハムスター、カエルなんかも一緒に飼った。
モモはいつもいじめないで仲間として家族として受け入れてくれた。


「先生!」ボクの悲痛の声に先生が部屋に飛び込んでくる。
見てすぐに事態を把握した先生は
ボクの見ている前でモモに人工呼吸を始めた。
普通に人間にやるようにマウスtoマウスで。
すると光を失いかけた目に輝きが戻ってきた。
苦しそうに両手両足をピンッ!と張るモモ。
奇跡は起きた。
モモが息を吹き返した。
でもそれも1時間はもたなかったと記憶する。
最後に「先生!」と呼んだがもう息を吹き返すことはなかった。


ボクは泣きながら病院を後にした。
治療代は無料だった。
あんなにみんなに迷惑をかけたのに・・・
ただ一言だけ先生はボクに言った。
「ボクの力が及ばなかった・・・」
先生の目から涙がこぼれていた。


いろんなひとに見られたと思う。
亡骸を抱き泣きながら歩いているところを。
そのときのことを想い出した。